【台湾一周自転車旅】「Are you Japanese?」。環島の途中で声をかけられたのは、台中の「地元」へ足をのばしたからだった(Day8)
横目に通り過ぎた商店が、気になった。わざわざ止まるのは面倒に思ったけれど、「地元へ、もっと足をのばそう」と誓ったからには、気になったお店に行こうと思った。ほどよい下り坂で加速していたスピードを緩め、通り過ぎたお店へ引き返した。
そこで、たずねられた。
「Are you Japanese?」
「Are you Japanese?」
●嘉義から台中へ
今朝は、5時過ぎに嘉義のホステルを出発した。毎朝早朝に出発するのは、午前中のうちに100kmを走行しておくと、午後を楽に迎えることができるからだ。朝早く出発し、ゆっくり休憩をとりながら走ることが、連日続く長距離サイクリングで大切な「体のいたわり方」なのである。
嘉義=台中間も、平たんな国道を走り続ける。台中の市街地まで「12km」の標識を確認し、ラストスパートの小高い丘をのぼっていく。台湾には、自転車がノロノロと坂道を上っていても、車やバイクに邪魔にならないほどの自転車レーンがあるから、ゆっくりとマイペースに走ることができる。「もう、台中まで来たのか」とここまでの道のりを懐かしんでいると、丘のてっぺんにさしかかった。顔をあげると、台中の街が広がっていた。
●「地元」に足をのばして生まれたコミュニケーション
台中の市街地に到着する20km手前の地点で、自転車から降りた。時刻は、10時30分。昼食にはまだ早かったけれど、なぜか見逃せなかった地元の食事処があったのでそこへ立ち寄った。「鴨肉麺」(薄味のスープに入った麺の上に鴨肉がのっているもの)を食べながら、Google Mapsで台中までのルートを確認していると、声をかけられた。
「Are you Japanese?」
僕は、必ずと言っていいほどに韓国人か中国人に間違えられるので、「日本人ですか?」とたずねられて(台湾では、初めて間違えられなかった)日本人としてのアイデンティティを取り戻したかのように元気よく「Yes!!I’m from Japan!!」とこたえた。すると、日本語の会話が始まった。
「私、日本に留学していたことがあるんですよ」
声をかけてきたのは、僕が立ち寄ったお店で働いている店員さん。彼女は、6年前に大阪天王寺の専門学校に通っていて、4年間日本に住んでいたらしい。どうりで、日本語が上手なわけだ。まさか、田舎のお店で日本語を話せる人に出会うとは思っていなかったので、たくさん質問した。
「“冬粉”。ずっと気になってたんですけど、これは何の料理ですか?」
「あぁ、それは“はるさめ”ですね。日本にもあるでしょ」
「台中で、台湾ならではの食べ物を食べられるお店を知ってますか?」
「台中のことはあまり詳しくないけど、1km先に台湾のお菓子を売っているお店があるから、行ってみてください。そこは、私の実家なので私が作ったお菓子もあるんですよ」
「へ~、そうなんですね!ちょうどそっちの方面に行くので、寄り道します!」
昼食にしては、おしゃべりに時間を使い過ぎてしまった。でも、平凡で他愛ない会話が、一人で旅をしている僕の心を満たしてくれた。もし、横目に通り過ぎていくこのお店を見逃していたなら、このコミュニケーションは生まれなかったし、そもそも彼女とも出会わなかっただろう。「地元へ、足をのばそう」。ちょっとした心がけで、こんなにも旅の質がかわるのかと、改めて感じた出来事だった。
彼女とお別れし、台中の市街地を目指した。ラストスパートは、ちょっとした上り坂。体のふしぶしに、700km分の疲労を感じながらふんばっていく。「残りの旅、気をつけていってらっしゃい」。見送りの言葉を思い出すと、少しだけひざの痛みが軽くなった気がした。
11/2 嘉義=台中 100km 5h00m 総走行距離715km