Running and Thinking 松本唯人ブログ

12歳から一人旅を始め、日本全国・海外20数カ国を旅した松本唯人(23)のブログ。台湾自転車旅やイスラエル、キューバ旅など、旅先での情報や日本人留学生のインタビュー記事を不定期で更新しています。近況はinstagram(@yuito.mtmt)で更新中。普段は株式会社TABI LABOでライターとして働いています。

【イスラエル旅】エルサレムのヘブライ大学に行ってきた。ガイドは日本人留学生(中東中米旅#10)

 数日前にエルサレム旧市街を案内してくれた、ヘブライ大学に通う光永(ミツナガ)さんの案内のもと、新市街からバスで10分ほどの高台にあるヘブライ大学のキャンパスを訪れた。セキュリティチェックを通ってキャンパス内へ入ると、玄関に大きな絵が飾られてあった。

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光永「この絵は、1925年の大学設立を記念して行われた式典を描いたものです。たくさんの要人たちが参加した式典なのですが、真ん中で演説している男性は誰だかわかりますか?」

松本「えっと…わかりません(笑)誰ですか?」

「この地(ヘブライ大学のキャンパス)は当時、イギリスの委任統治領だった…ということがヒントです(笑)」

「えっと…わかりません。い、いったい誰なんですか!?」

イスラエル建国の先駆けとして設立された「ヘブライ大学」

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「バルフォアです」

ヘブライ大学の玄関に飾られてある大きな絵は、1925年に行われた大学設立式典が描かれており、中央ではイギリスの外務大臣バルフォアが演説を行っている。「バルフォア」。これは、世界史の近代史分野で耳にする名前。第一次世界大戦中に行われた、イギリスの「三枚舌外交」のひとつでイギリスのシオニストユダヤ人国家建設を推進する人々)を支持した「バルフォア宣言」のその人である。

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イスラエルの建国は1948年です。1925年に設立されたヘブライ大学は、ユダヤ人国家設立の先駆けとして作られました。この大学の特徴は、全授業をヘブライ語で行うこと。ヘブライ語は聖書の言語なのですが、当時は口語としてはあまり使われていませんでした。ですが、ユダヤ人国家設立に向けてユダヤ人の言語を確立しようということで、口語としてのヘブライ語の普及活動が活発になりました。そのため大学設立当時の教授たちは、自分たちでヘブライ語を学びながら、ヘブライ語で授業をしていたんですよ。ちなみに、大学設立後はじめての講義はアインシュタインが“相対性理論”を行いました。もちろん、ヘブライ語で。」

・図書館の「日本語コーナー」

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「あれ、図書館なのになぜか騒がしいですね」

ユダヤ人は本当に議論が好きなので、図書館の一階はディスカッションコーナーになっています。それと、奥の部屋には昼寝コーナーもありますよ。ぼくは、ここを愛用しています(笑)」

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「昼寝、大切ですよ!(笑)中途半端に机に突っ伏して寝るよりも、こうやって昼寝コーナーで横になって寝た方がその後の作業もはかどりそうですし…。あ、日本語コーナーってありますか?」

「ありますよ。ユダヤ人は“本の民”と呼ばれているほどに、読書好きです。この図書館も世界各国の言語の本が所蔵されていて、比較的には少なめですが日本語の本も所蔵されています。つきました、ここです」

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「少ないとはいえ、中東の大学でこんなに日本語の本があるなんて、なんか嬉しいですね。マンガもいっぱいある!」

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「日本語学科もあるので、マンガはその学科がたくさん集めてるんだと思います」

「マンガ以外には、文化人類学社会学、歴史系の本が多いですね。あ、これ(『文化ナショナリズム社会学現代日本アイデンティティの行方~』/吉野耕作)は僕の所属している社会学科の先生の本です(笑)こういった内容の本も、多く読まれているんですね」

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・迷路のような内側、要塞のような外側

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「さて、校舎のなかを案内しますね」

「なんか、迷路みたいで迷いそうですね。」

「そう、迷路なんです。この大学のキャンパスは、東エルサレムにあるわけですが、この一帯は時代によっていろんな国家に占領されてきました。そのため今でも“有事”に備えて、内側は敵に不利なように迷路のような造り、外側は角ばった要塞のような造りになっているんですよ」

「“有事”に備えるということが、身近なものだなんて(日本で生活している)ぼくにとってはとても遠くにある感覚ですね…」

「ちょっとここから外へ出ましょう。ほら、要塞みたいな造りでしょう?」

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「本当ですね。角ばった造りになっている…。内側からは外が見えるけど、外からだと内側の様子は把握しづらいですね。それにしても、この大学は景色が良いですね(笑)」

「そうですね(笑)向こう側には、旧市街を一望できる“オリーブ山”がありますが、そこからの眺めとかわらないほどきれいです」

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「これは“杉原千畝”ですか?」

「正解です。知っての通り彼は、在リトアニア大使館で当時迫害されていたたくさんのユダヤ人にビザを発行し助けたので、こうやって写真が飾られています。キャンパス近くには、記念碑もありますよ。それに、彼の息子さんはここヘブライ大学で学ばれていたんです」

「へぇ、それは知りませんでした。こうやって、海外の大学に日本人の写真が飾られてあるのはなんだか嬉しいですね。でも、“日本語コーナー”や“日本人の写真”があるという事実を『嬉しい』と思うこと自体が、図書館にあった吉野先生の本で書かれているようないわゆる“ナショナリスティック”な発想なのかもしれませんが…(笑)」

・大学予科学校

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「大学広いですね~」

「広いです。でも実は、ここはもう大学とは異なる“予科学校”のキャンパスなんです

予科学校?」

「ここは、ヘブライ語の基礎や学部へ入学するための試験勉強をする教育機関になります。もし留学生が、ヘブライ大学の学部で学びたかったら、まずはこの予科学校で勉強しなければいけません。ぼくも1年間通ってヘブライ語の習得に役立ちましたが、学費が100万円をこえるので高い…」

「た、高いですね…。」

「でも、ここの特徴…というかイスラエル教育機関の特徴は、世界各国に離散していたユダヤ人がイスラエルにやってくるので、学校には様々な母国語を持った学生がいます。だから、友達さえ作れば多言語に接する機会ができて、とても勉強になりますよ」

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・「猶予期間」のある社会

OECDによると、イスラエルの学士取得率(25歳~64歳)は45%(2010年)と、日本の44%(2010年)と変わらない(少しだけ高い)。大学入学前には、高校卒業後に男性は3年間、女性は2年間におよぶ兵役がある。そのため、学生の年齢層は日本と比べると少し高くなっている。そして特徴的なのが、兵役終了後に約1年間の「猶予期間」がある文化。兵役中に給与(役職によって異なるが、軍隊に所属している時は散財するタイミングがあまりないめ、ある程度の貯蓄になるらしい)を受けていることもあって、多くの若者がこの期間で海外旅行をすることが恒例となっている。こんな社会的義務や猶予があるため、大学院生ともなるとグンと年齢が高くなるようだ。そんなワケもあるのか、ヘブライ大学にはいわゆる「サークル活動」みたいなものは少なく、多くの学生が年齢的にも精神的にも落ち着いた学生生活を送っているらしい。

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2018年2月22日 羽田空港国際線ターミナル