【台湾一周自転車旅】台北から始まった「環島」。台中から台北まで、最後の180キロメートル(Day9)
台北の街は、大粒の雨さえも夜景のアクセントとして取り込み、大きくきらめいていた。自転車で一周した台湾島全土を束ねる最大の都市に、僕はもどってきた。
●小雨の台中
台湾一周「環島(ファンダオ)」の最終日は、小雨だった。これまで天候に恵まれて、快晴の空のもとを走ってきた。「最終日くらいは、雨でも良いか」と自分に言い聞かせながら、真っ暗な午前5時の台中の街を走り去った。
今日の予定は、台中=台北間の180km。距離こそ長くはないけれど、前半の120kmは、新竹の「風の強い地域」といわれている海岸沿いを走るため、大幅なタイムロスを見込んでいた。なんとか、夕暮れ前に到着したい。そんな思いで、新竹を目指した。台中郊外まで走ると、潮の香りをともなった風が、少しだけ吹いてきた。
●新竹までの120キロメートル
まったく、進まない。出発から、10kmほど走った辺りで、心地よい海風は「そう簡単に、台北までは行かせないよ」と言わんばかりに強い向かい風へと一変した。下り坂でも進まないといった事態に「(笑)」と思いながら、気楽に進んでいった。
車とバイクでごったがえし、日系の百貨店もある新竹の中心部に到着したのは、午後3時。ここまで、120km。2時間前には到着するはずだった新竹駅前を通り過ぎ、台北の手前にある都市・桃園を目指した。強い風は、まだ続いていた。
●夕暮れの桃園
この旅最後の山道を越えたとき、「桃園市」の標識が目に入ってきた。タイムロスをしながらも、着実に前に進んでいるのだと感じた。「ここまできたぞ、もう少し!」と、自分を鼓舞しながら進んでいく。桃園の中心部に到着すると同時に、今回の旅ではあまり使わなかったライトを点灯させた。
台北までは、残り55km。なかなかシブい距離だけれど、ここまできたら一気に台北へ行きたかった。台湾を走っているあいだ、「最悪、電車に乗れば台北に到着するよな…」と、保険の選択肢を頭の片隅で考えている自分を脱ぎ捨てたかった。
自転車旅を始めた小学生のころは、「自転車をこがなきゃ目的地へはたどり着けない。必ずこぎきるぞ」と思っていた。それなのに、22歳の大人になった今、「諦めても、目的地へは行ける」という考えを持ちながら自転車に乗っている。そんな自分に気づいたとき、自分の思考というものが進化ではなく、明らかに退化していると感じた。
ここで諦めるか、台北まで走るか。選択によっては、「台湾自転車旅2017」の価値に天と地の差が生まれるのではないかと思った。「絶対に、台北までいこう」。1個20円の大きな餃子を、最後のエネルギー源として食べた。真っ暗になった桃園の街は、帰宅ラッシュの渋滞で混雑していた。そして、小降りだった雨は、大粒の土砂降りに変わった。
●きらめく台北
夜のネオンに照らされた、桃園の市街地。大都市・台北が近づいていることを予感させる賑やかなこの街からの40kmは、すべて下り坂だった。それに、幸か不幸か、大雨の中の走行だったため、安全に走行することに緊張感が向いていて、限界が近づいていたひざの痛みが全く気にならずに走ることができた。最後に、山に沿った真っ暗な自転車道路をかけおりていくと、視界一面にきらめく台北の街が見えてきた。
「もどって、きた」。一気にこみあげてきた高揚感が、自転車の速度をあげた。ひざの痛みも、雨に打たれた体の寒さも、一瞬で忘れた。郊外と中心部をへだてる淡水河に架かる橋を、全速力で越えて台北駅に到着した。達成感にひたりながら、自転車をおりてヘルメットをおいた。深呼吸しながら空に向かって大きく伸びをすると、橋を越えるときまで降っていた雨が、いつの間にかやんでいることに初めて気がついた。
11/3 台中=台北 180km 10h30m 総走行距離895km