【台湾一周自転車旅】車城で早朝に連れ出された理由は、台湾人サイクリストの「やさしさ」だった(Day4)
朝起きると、相部屋だった台湾人のサイクリストに言われた。
「おはよう。僕のBOSSが待っている」
台湾島西側の街「車城」でも、知らない人と相部屋のホステルに宿泊した。今日は、この街から台湾第二の都市「高雄」まで走る予定だった。早朝5時に起床し、出発前の準備をしていると、前の夜に自転車の話で盛り上がったサイクリストの林さんに声をかけられた。「僕の上司が待っている。すぐ近くだから、荷物をまとめて自転車でついてきて」。高雄までは約90kmと短い距離だったので少しは出発が遅れてもいいかなと思い、言われるままに林さんについていった。宿泊先の近くの広場で、僕を待っていたのは「BOSS」だけではなかった。
林さんに連れ出された先には、約50名のサイクリストたちが準備運動をして待機していた。どうやら、林さんは台湾のサイクリングクラブのメンバーらしい。何が起こるのかと思っていると、僕の自転車を指さして言った。
「新しいボトル入れを、プレゼントするよ」
僕の自転車には、プラスチック製のボトル入れが装備されている。いつもは、そこに水分を入れたボトルをさして、走行中にすぐ水分をとれるようにしている。しかし、自転車旅を行う上で重要なボトル入れが、台湾へ出国する日に破損していた。ガムテープで補強していたものの、ボトルの重さを支えきれず使い物にならなくなっていた。それをみかねた林さんが、クラブの上司に頼んで替えのボトル入れを準備してもらっていたのだ。
思いがけないやさしさに、何度も「謝謝(ありがとう)」と言っていると、林さんは「サイクリストの気持ちは、僕もよく分かるから」と言ってニコリと笑った。そして、みんなで記念撮影をして、大所帯の親切なサイクリストたちは一足先に「高雄」へと出発した。
人口が少なく未開発の東側の旅を終え、ようやく西側へとやってきた。「車城」からの平坦な道のりを進んでいくと、遠くに台湾第二の都市「高雄」の巨大なビル群が見えてきた。
「もう少しで、到着」。台湾人サイクリストたちの優しさを感じながら、ボトルを手に取り粉塵でザラザラした口の中を流した。目の前に立ちはだかる高層ビルを見上げると、まるで砂漠の中に突如として現れたかのような近代的な街の空は、晴れているのに灰色にかすんでいた。
10/29 車城=高雄 90km 4h20m 総走行距離495km